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朝起きて、レジャーシートを探した。彼女と花見をする約束をしていた。11時に大学で待ち合わせた。成績証明書を貰いにいったのだが、まだ渡せないというので無駄足になってしまった。後輩のライブを見た。あの人は映画を見るときや、ライブを見るとき、本当に静かになる。

ライブ前の話だが、彼女とアメリカンダイナー風の喫茶店でカレーとハヤシライスをたべた。ガーリック風味とあったが、そこまでじゃないだろうとタカを括っていたら、なかなかのものが出てきてびっくりした。

そのあと、花見をしようと近くの有名な公園に行ったが、人が多くで満足に歩けないほどだった。
みんな楽しそうだった。
みんなの笑顔や活気が逃げないように桜が閉じ込めているようで、悪い気分にはならなかった。

そのあと、別の公園にいった。今度はほとんど人がおらず、1枚のレジャーシートに座ってのんびりしていた。親子が遊んでいた。父と母と娘二人、次女と母は途中で帰ったが、長女は満足するまで遊んでいた。父親は少し疲れているようだったが、あまり嫌ではなさそうだった。そこには入れ替わり立ち替わり、喧騒に疲れたカップルがひと休みしに来ていた。

彼女とはその後カラオケに行き、交差点で別れた。
次の予定である、高校のサッカー部の監督のお別れパーティに出席するためである。

道の途中で合流したチームメイトと3人で行った。

 

その会は盛り上がった。
監督のメッセージや、奥さんとのプライベートな話、私たちが遠征で戦っていた日の晩は朝まで飲み明かしていたこと。それぞれの近況、思い出話。たくさんの話をした。
しかし、その会話のどれもはあの頃とは違う、大学生の空気感をベースにして繰り広げられていた。
お酒、タバコ、私はどちらも呑み、喫うが、それらに触れていなかった頃の話とはあまり相性が良くないように感じた。
煙やアルコールなどによって、砂の舞う夕暮れ前のグラウンドが汚されていくように感じた。
実際、そんなに美しい思い出ではないのだと思う。でも、それほどまでにあそこは神聖な場所になっていたし、その後付けの美しさすら大切にしていた私は悲しい気持ちになった。

 

二次会を経て、終電を逃した私たちは10人ちょっとでカラオケに入った。
初めは定番の曲を1、2フレーズごとにマイクを回しながら歌っていた。だが、ここでもお酒は私たちを追いかけてきていた。友人の一人が買ってきたウォッカ缶チューハイは、高校の部活の会を瞬く間にサークルの飲み会へと変えてしまった。悪い夢を見ていると思った。同時に、「私が違うのか、私が何も変われていないのか、私が変わってしまったのか」疑心暗鬼になって外に出たとき、なかから呑まされすぎて潰れてしまった友人が這い出てきた。彼は間違いなくこういう場所に慣れていない。


「なあ、どうにかして逃げれんかな」


驚いたが、安心した。あの場所に戻ろうと私が立ち上がった瞬間だった。

荷物を持って、私たちは歩き出した。彼の他にもう二人をつれて。

その二人のうち一人は家に歩いて帰ると言った。帰る前に彼は
「俺らってああいう友達じゃなくね?」
と呟いていた。

私たちは3人でコンビニの前で話をした。味噌汁を飲みながら、潰れていた彼は寝ていたが、私ともう一人は、持ってきていたレジャーシートに座って、最近の話をした。
就職活動のこと、恋人のこと、最近行ったお城のこと、インターネットで出会った友達のこと、今抱えていること。
頭が痛くてあまりうまく聞けなかったが、彼は嬉しそうに話してくれていた。
「なるほどね、わかるよ、でも俺はそれをこう捉えるんだよね……」
と、たくさん話してくれた。
話をしてくれた。
人との会話は面白くなくていいと思う。面白くても、いいと思う。でも、結果的に、のちに愛せるものであるべきだと思う。
衝突しても、間違っていても、理論的なものでも、感情的なものでも、くだらないことでもいいと思う。
うまく言えないが、いつか言葉にしたい。こうしたことを、私は大切にしたい。いつかふとした瞬間に掘り当てて泣きたくなるような思い出を、今通っている道端に埋めたりしながら生きていきたい。
その大半は場所を忘れてしまうだろう。掘り当てた思い出は、恥ずかしかったり、悔しかったり、つまらなかったりするだろう。でも、いつかこの「2023年4月1日」を生きる、静かな公園の彼女や、a.m.3時にコンビニのそばで嬉しそうに、悲しそうに話す彼を、思い出せたらいいと思う。

 


漫画喫茶で夜を明かして、始発の次の電車で帰った。夜から転げ出るようにして出会ったその光は、どうしてもあのグラウンドからも見えた夕日に見えてしかたがなかった。